写真を撮る。
シャッターを押して、視界を切り取る。
そこにはどうしても写真家の意図というか
思惑のようなものが現れてきます。
そしてその時の、写真家の心のありようまでを
映しこんでしまうものではないでしょうか。

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森山大道 写真集「NORTHERN」。
ここには1978年の北海道のさまざまな街の姿が
記録されています。

写真家、森山大道が札幌にやってきたのは5月。
3か月だけ部屋を借り、そこを拠点にして
毎日カメラを手に街を写し歩きました。

その時彼は倦怠のさなかにいて、
自分を変えるきっかけとして北の地を選んだようです。
その彼の心情を映すように、
写真の中にはメランコリックな雰囲気が漂っています。

狸小路の喧騒も、大通り公園の賑わいも、
なんだか他人事のよう。
そして荒涼とした景色はよりさびしく
感じられるのです。

でもこの年に子供だった私にとっては、
記憶のある懐かしい風景ばかり。
ふだんは忘れている、脳の奥底にある記憶を
呼び覚ましているような感覚。
どこかに自分が写っているのではないか、と
真剣に見てしまったほどです。

ページをめくって、時間を遡る。
北海道生まれ、北海道育ちの人なら
タイムスリップした感覚を味わうことが
できるはずです。